資本コストを意識したキャッシュアロケーションで、GVA・エクイティスプレッドの最大化を図る
中期経営計画「VISION 2030 stage1」の財務戦略課題は、強固な財務基盤を維持しつつ、成長事業投資や環境などサステナブル投資と資本コスト低減の両立により、GVA(Gunze Value
Added)を向上させることにあります。投下資本に対する収益性管理を強化する一方で、収益性の低い事業の構造改革や資産の縮減を進めてきました。
昨年来、資本コストや株価を意識した経営に関する説明責任が強く求められるようになりましたが、上記の取り組みをさらに進化させて「VISION
2030」のstage2以降の財務戦略を立案していきます。
業績評価
2023年度の連結業績は、売上高は1,328億円(対前期97.7%、対業績予想94.9%)、営業利益は67億円(同9億円増、同7億円減)、経常利益は67億円(同7億円増、同7億円減)、純利益は51億円(同6億円増、同3億円増)と、業績予想に対しては純利益を除き未達となりましたが、対前期では減収ながら各段階利益で増益となりました。
対前期での売上減少は、前期のライフクリエイト事業での工場跡地開発売上が無くなった影響が大きいのですが、全般的に素材関係は顧客の在庫調整やプラスチック使用量の減少影響を受け、アパレル関係も消費者の支出抑制や天候不順影響で数量面では苦しみました。
営業利益は、数量減によるマイナスに加え、素材関連での原料価格高止まりやアパレルでの円安影響を受けましたが、価格転嫁やコストダウンによりこれを吸収・挽回しました。
セグメント別には、機能ソリューション事業が特にプラスチックフィルム分野の急激な需要減で60億円(対前期8億円減)となった一方で、前期2億円の赤字であったアパレル事業が製品値上や生産構造改革効果で14億円(対前期16億円改善)の黒字となりました。メディカル事業は、売上は伸長したものの、今後の事業拡大に向けた人財投資コストが嵩み、若干の減益となりました。
事業構造改革として、電子部品分野では前期のフィルム事業譲渡に引き続きタッチパネル事業も中国生産子会社の株式譲渡契約を締結、2024年9月末をもって日米の商権を含め撤退することとしました。また、インドネシアのソックス生産子会社の閉鎖、スポーツクラブ不採算店舗の閉鎖・合理化を決定するなど、計28億円の特別損失を計上しました。
他方、政策保有株式の縮減を進め20億円の売却益を計上したほか、子会社への投資減損に対する税効果25億円を計上したことなどにより、純利益への影響は最小限に留まりました。
2024年度業績予想
原燃料価格の高止まりに伴う物価上昇や円安影響及び海外経済の減速懸念など、先行き不透明な状況が継続しています。これらの事業リスクを踏まえつつ、素材関係の市況回復、自働化とDX推進による生産性向上の取り組みや、グローバル最適生産体制によるコスト競争力の強化や、原材料調達網の拡充とコストダウン、市場のさまざまな変化を捉えた新たな価値創出活動による拡販、また、前期までに実施した事業構造改善効果などを積極的に2024年の業績予想に織り込みました。
機能ソリューション事業では、プラスチックフィルム分野は環境対応型新商品の積極投入とサーキュラーファクトリー(資源循環型工場)の本格稼働効果の発揮、エンプラ分野はOA市場向け製品のシェア拡大と医療・半導体分野の需要増、および電子部品分野の撤退影響を織り込み、対前期101.5%の増収、12億円弱の増益を計画しました。メディカル事業では、工場拡張による既存製品の拡販と癒着防止材の需要拡大、ならびに中国・米国での伸長を織り込み、111.1%の増収、5億円強の増益を計画しました。アパレル事業では、DtoCルートの伸長と差異化新商品を通じたレディスインナーの拡販並びにグローバル最適生産体制構築などによるコスト改善を織り込み、円安予想のなか108.5%の増収、4億円強の増益計画とし、ライフクリエイト事業では、商業施設の収益力向上、スポーツクラブ分野の構造改善効果とスクール事業などの拡大を見込み、100.6%の微増収ながら3億円弱の増益計画としました。
全体では売上高は1,400億円(対前期105.4%)、営業利益は90億円(同22億円強の増益)、純利益は75億円(同24億円弱の増益)を予想しています。
「VISION 2030 stage1」財務戦略 2023年度の主要取り組み
2023年度は負債コストの抑制のため、米ドル資金調達体制を再編しました。グンゼグループでは、調達コストの低い香港の統括会社が一括で米ドル資金を調達し、運用していました。しかし、長らく大きな変動のなかった調達コストが2022年2月から上昇しはじめ、2022年度末には従来の約9倍となりました。今後の方向性を検討した結果、統括会社の主事業に一定の目途が立っていたことも踏まえ、2023年2月に統括会社清算と米ドル資金調達統括機能の日本本社への移管を決定しました。移管にあたり、各国の外貨規制や移転価格税制などを考慮し、一部の会社については外部から直接資金を調達することとしました。また、一部の会社に対して資本構成最適化のための増資を実施しました。増資については、政策保有株式売却やキャッシュポジションの見直しにより創出したキャッシュを原資としたため、増資のための有利子負債・負債コストの増加は生じていません。その結果、2023年度のグループ負債コストは1.70%(対前期0.14ポイント低下)となりました。
2024年度の調達状況は、海外の調達コストが高止まりしているとともに、日銀の金融政策変更の影響で国内の調達コストが上昇しています。引き続きグループ全体で負債コストの抑制に取り組んでいきます。
GVA※/ROICの状況
※ GVA(Gunze Value Added):グンゼオリジナル指標
2023年度のGVAは16億円の赤字(対前期8億円増、対予想5億円減)となりました。営業利益は前述のとおりですが、投下資本は、為替影響などで在外資産が想定よりも増加したものの、政策保有株式の売却などにより、1,294億円(対前期37億円減、対予想3億円増)となりました。
政策保有株式の縮減については2023年度も順調に進めることができました。2023年度末の保有状況は32銘柄、純資産比4.34%となっており、2024年度は27銘柄以下、純資産比3%未満まで縮減を進める予定です。なお、売却によって生じるキャッシュは、エンプラ分野・メディカル事業の増産に向けた工場拡張投資に充当します。
次にセグメント別の状況です。グンゼグループでは2019年度から資本コスト経営を開始し、グループの資本収益性向上に取り組んできた結果、グループの総資産の構成や各セグメントの資本収益性が変化しています。
まず総資産については、政策保有株式縮減や低収益資産圧縮に取り組むとともに、成長事業に位置づけている機能ソリューション・メディカル事業に重点的に投資してきました。その結果、資本コスト経営開始直前期(2018年度末)に対し、グループ総資産は76億円減の1,620億円に圧縮。総資産に占める機能ソリューション・メディカル事業の割合は28%から41%に上昇しています。特に成長期待の高いメディカル事業の総資産額は約3倍に増加しています。
次にROICですが、機能ソリューション事業はプラスチックフィルム分野の売上不振とサーキュラーファクトリー投資の影響により、直近のROICは9%台に低下していますが、2024年度は10%台に回復すると見込んでいます。メディカル事業は人財・設備投資に伴いROICが低下していますが、成長過程の一時的なものであり、現状の水準は許容範囲内と判断しています。アパレル事業、ライフクリエイト事業はコロナ禍の利益減少でROICが悪化しましたが、構造改革によって収益性を改善してきており、2024年度にはコロナ禍前の水準まで回復すると見込んでいます。
現在の主要課題は、アパレル、ライフクリエイト事業のGVA黒字化です。アパレル事業は構造改革をさらに進め、現状の異常な円安が適正化すればGVA黒字化を狙えると考えています。一方、ライフクリエイト事業は、現在取り組んでいるスポーツクラブ分野の不採算店舗閉鎖にとどまらず、投下資本の大きい不動産分野の構造改革など、もう一歩踏み込んだ収益性改善に取り組む必要があると考えています。
また、コロナ禍以降悪化しているCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の改善が不十分であることも課題です。特に棚卸資産回転日数についてはGVA黒字部門(=ROIC管理部門)も含めて対策を強化していきます。
GVA黒字部門は同業他社水準も見据えたROICの維持・向上に拘っていきます。社内管理指標もROICツリー展開で個々の業務と結びつけ、構成員の資本収益性に対する意識向上を図ります。
政策保有株式の縮減の推移
ROICと総資産の推移
GVA・ROE実績、見込み
(単位:億円)
|
2018年度 (2019年3月期) |
2019年度 (2020年3月期) |
2020年度 (2021年3月期) |
2021年度 (2022年3月期) |
2022年度 (2023年3月期) |
2023年度 (2024年3月期) |
2024年度目標 (2025年3月期) |
営業利益 |
66 |
67 |
46 |
48 |
58 |
67 |
90 |
投下資本 |
1,373 |
1,342 |
1,327 |
1,258 |
1,331 |
1,294 |
1,310 |
GVA※ |
-19 |
-16 |
-31 |
-26 |
-23 |
-16 |
全社計黒字化 |
ROE |
3.7% |
4.0% |
1.9% |
2.6% |
3.9% |
4.4% |
6.32%以上 |
- GVA(Gunze Value Added)=(NOPAT+配当金)-(期末投下資本(総資産-無利子負債))×WACC
資本コストを意識した最適な株主還元戦略の追求
グンゼグループは、株主の皆さまに対する利益還元を経営の重要政策と位置づけており、「VISION 2030
stage1」ではROEが株主資本コストを上回るまで総還元性向100%を継続することとしています。これは収益拡大によって資本収益性を向上させる方針であるとともに、財務健全性の維持・向上のために現状以上に株主資本をお預かりする必要はないと判断しているためです。よって株主資本コストを上回るROE達成後も、資本政策の一環として現行と同水準の利益還元を継続する可能性もあります。
利益還元の方法としては、DOEを基準とした安定的・継続的な配当を主軸とし、残りは自己株式取得により利益還元することとしています。基準とするDOEは、設定当時の東証一部上場企業の利益還元状況(証券会社調べ)の中央値2.2%を下限としていますが、今後の利益伸長に応じた配当性向水準の見直しが必要と考えています。また、過度な自己株式取得は株式の流動性低下による株主資本コストの上昇を招くリスクがあることも踏まえ、グンゼグループの財務状況や株主構成などを考慮した配当・自己株式取得の最適バランスを検討し、必要に応じて方針自体も見直していきます。
1株配当金と配当性向の推移
自社株の状況
次期中期経営計画とエクイティスプレッドの最大化
グンゼグループの2023年度末のPBRは0.8倍となっており、企業価値が毀損した状態が継続しています。PBRが低迷する要因はさまざまですが、エクイティスプレッドがマイナス、つまりROEが株主資本コストを下回っていることが主要因と考えています。「VISION
2030
stage1」では株主資本コストを6.32%に設定していますが、投資家との対話や国内外の金利情勢などを踏まえた直近の推計結果から、株主の皆さまに満足いただくことができるエクイティスプレッド創出のためには、少なくともROE8%は必要と考えています。仮にROE8%を目指すとなると、2024年度の業績予想利益から1.3倍以上の利益伸長が必要となるため、早期の事業成長に向けた積極的な投資を実施していきます。資本コストや直近のネットDEレシオの水準などを考慮すると、投資の原資は負債で調達すべきと考えています。一方、国内外の資金調達コストが上昇していることから、ROEへの影響を考慮し、今まで以上に投資の厳選と、調達額・期間の精査が必要と考えています。
昨今の金利上昇などを踏まえ、次期中期経営計画では負債コスト、株主資本コスト、WACCを見直す予定です。利益水準・財務健全性・資本効率のすべての面において最適な資本構成とキャッシュアロケーションを追求し、GVA・エクイティスプレッドの最大化を図ります。
「資本コスト経営」浸透に向けた社内広報の取り組み
「資本コスト経営」浸透のために作成した冊子
社内への浸透を図り、社員が一丸となって「資本コスト経営」に取り組むために、2020年度よりイントラネットや社内報を活用し、管理指標であるGVAについて全10回にわたってその概念やその重要性を説明し、内容の理解度向上を図りました。
さらに2022年度は、日常業務と「資本コスト経営」との結び付きや、GVA改善に向けた個々の取り組むべき業務を分かりやすく理解できるシリーズを企画し、紙面で読みたいとの希望を受けて冊子化しました。シリーズ終了後にはアンケートを実施し、理解度をイントラネットで公表するなど、フィードバックしています。「資本コスト経営」を社員がより身近に感じた上で理解を深め、業務の中で実践していけるよう、今後も取り組みを継続していきます。