中期経営計画「VISION 2030 stage1」では、財務戦略上の目標として、強固な財務基盤を維持しつつ、成長事業投資や環境などのサステナブル投資と資本コスト低減との両立により、GVAを向上させることを掲げています。事業部門では、投下資本に対し収益性管理を強化し、収益性の低い資本は縮減する取り組みが重要だと考えています。株式市場からは、株価低位な企業に対してこれまで以上に厳しい視線が向けられるため、資本収益性の改善はもとより、収益成長性の確からしさを訴求する取り組みが一層重要になると認識しています。
財務経理メッセージ
資本コスト重視の経営でGVA向上を実現しフリー・キャッシュ・フローを創出
2022年度業績評価
2022年度の連結業績は、売上高1,360億円(対前期109.4%、対業績予想100.0%)、営業利益58億円(同9億円増、同2億円減)、経常利益60億円(同6億円増、同21百万円増)、純利益45億円(同15億円増、同8億円増)となりました。
全事業で原燃料価格高騰の影響を受けたことに加え、アパレル事業では急激な円安による輸入コスト上昇の影響も受けました。さらに、世界的な半導体不足に起因する原料調達の混乱や輸送コストの高騰など、外部環境により約100億円のマイナス影響があったものの、プラスチックフィルム分野を中心に、その半分を価格転嫁で吸収したほか、エンジニアリングプラスチックス分野・メディカル分野の増販や仕入れコストの低減、生産性改善などによるコストダウンでカバーすることで、対前期で営業増益を果たすことができました。
セグメント別では、機能ソリューション事業が史上最高益となる89億円(対前期9億円増)を計上して利益の大半を占めた一方で、アパレル事業は対前期3億円改善したものの、2億円の営業赤字となりました。ライフクリエイト事業では、ショッピングセンター事業や、山形県長井市の工場跡地開発により、対前期2億円強の増益となりました。収益性が課題となっている分野においては、電子部品分野ではフィルム事業を株式会社ダイセルに事業譲渡し、レッグウエア分野では生産キャパシティの適正化に向けて中国工場での生産を終了しました。これらの損失処理は2021年度に計上済みであり、大きな特別損益を出すことはありませんでした。これらの結果、営業利益は若干未達となったものの、ほかの指標は年初公表した業績予想を達成しました。
2023年度業績予想
新型コロナウイルス感染症の5類移行により、社会・経済活動全般が平常に戻る動きが生まれつつある一方、原燃料価格の高止まりや一部原材料の調達難が続くことが予想されます。また、米国の景気後退の懸念もあり、経営を取り巻く環境は引き続き不透明な状況にあります。これらを踏まえ、2023年度は、成長分野以外は大幅な増販に依存することなく、原料価格上昇に対応した価格改定の実施、歩留まりの改善や自働化などの生産性向上、グローバル最適生産体制によるコスト競争力の強化、原材料調達網の拡充を行っていきます。さらに、メディカル分野の組織集約やアパレル事業の営業体制の効率化など、市場対応力強化による新たな価値創出活動に取り組むことを業績予想に織り込みました。
また、2023年度からは、成長けん引分野として位置づけているメディカル事業を機能ソリューション事業から独立開示することとし、新規ビジネス拡大などによる増収(対前期109.5%)と2億円の増益を見込んでいます。残る機能ソリューション事業においても、プラスチック分野における環境対応型新商品の投入や守山サーキュラーファクトリー®の本格稼働、エンプラ分野の非OA 製品シェア拡大などにより、対前期104.5%の増収と3億円弱の増益を織り込みました。アパレル事業は、商品の高付加価値化を含めた価格改定やレッグウエアの生産基地集約効果などを織り込み、対前期103.8%の増収と16億円の増益を見込んでいます。ライフクリエイト事業は、前年の長井プロジェクトの影響で減収(対前期90.0%)を予想しているものの、商業施設リニューアルによる顧客増やスポーツクラブ分野でのスクール事業拡大を見込み、1億円弱の増益計画としました。
全体では、売上高1,400億円(対前期102.9%)、営業利益75億円(同17億円弱の増益)、純利益48億円(同3億円弱の増益)を予想しています。
中期経営計画「VISION 2030 stage1」財務戦略の進捗状況
中長期的な企業価値向上のため、2022年度は守山サーキュラーファクトリー®をはじめとした環境関連投資や成長投資など、約100億円の設備投資を実施しました。投資の原資としては、政策保有株式や遊休資産の売却資金と保有現預金を活用することで、有利子負債の増加を43億円にとどめ、自己資本比率の低下を抑制し、強固な財務基盤を維持しています。
環境関連投資については、今後のキャッシュ・フロー計画を検討していく中でESGへの取り組みが評価され、ジェネラルシンジケーション方式のグリーンローンにより調達した長期資金を充当しました。調達金利が上昇傾向にある中での借入でしたが、グンゼグループの経営方針などに賛同する金融機関から低利で融資を受け、従来の調達手段よりも有利な条件で資金を調達することができました。これに加え、コマーシャルペーパーの機動的な発行・償還により有利調達に努めた結果、グンゼの負債コストは低水準を維持しています。
GVAの状況
グンゼグループの資本コストは、一般的に用いられているCAPM(資本資産評価モデル)を使用して計算し、中期経営計画「VISION 2030 stage1」期間中は、株主資本コストを6.32%、負債コストとの加重平均である全社WACCを5.15%と定めています。また、事業ポートフォリオマネジメントを強化し、企業価値を向上させるためには事業部門別の資本収益性の把握が必要不可欠であると考え、事業部門別WACCも設定しています。事業部門別WACCについては、各事業部門の分野や事業規模などが類似する複数企業を選定することは困難であるため、日経Needs 業種分類に基づき、同事業分野を主たる事業とする複数企業のβ値、D/Eレシオ(負債資本倍率)の平均値を用いて算出しています。
当該資本コストを踏まえた2022年度のGVAは、全社計は23億円の赤字となりましたが、対前年で3億円改善しています。2023年度は、さらなる営業利益の伸長と投下資本の縮減により12億円の改善を見込んでおり、2024年度の全社GVA全社計黒字化に向けて、着実に資本収益性を改善しています。セグメント別では、機能ソリューション事業、メディカル事業は黒字を実現しているものの、アパレル事業、ライフクリエイト事業は赤字となっています。GVA黒字部門については、ROIC(投下資本利益率)管理によるさらなる収益向上を図り、赤字部門は構造改革の断行も念頭に、早期黒字化を目指します。2024年度には営業利益目標として、100億円の達成を掲げています。アパレル分野は市場環境の変化もあり、当初計画の達成は厳しい見通しですが、エンプラ分野とメディカル事業がすでに当初計画を上回るペースで推移しており、全社での目標達成は可能と判断しています。
利益の伸長に加え、投下資本の縮減にも取り組む必要があると考えています。例えば、2022年度の全社CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は173日と対前期で若干改善しましたが、棚卸資産回転日数はわずかながら悪化しています。原料調達難への対応や為替変動、原燃料高騰の影響もあるとはいえ、コロナ禍以前の水準と比較すると、改善の余地があると考えます。CCC 改善対策の一環として、2023年度の予算編成時よりGVAツリーの展開を開始しました。主要会議体の報告資料では、GVAを主要構成要素別にツリー形式に分解して、各事業部門のGVAの予算進捗を管理しています。売掛金や棚卸資産、固定資産といった主要資産が資本コストに換算するといくらになり、GVAにいかほどのインパクトを与えているのかということを明確にすることで、資産に対するコスト意識の向上、改善促進につなげたいと考えます。
また、政策保有株式の縮減を進めており、2022年度は32億円の売却を実施しました。その結果、純資産に占める政策保有株式時価残高ウエイトは、2021年度末の9.9%から2022年度末は8.7%に低下しました。保有意義を精査しつつ、さらなる縮減に向けて取り組みます。
エンプラ分野とメディカル事業では当初計画を上回るペースで増産投資を進めていますが、上記の取り組みにより、投下資本についても目標を達成できると見込んでいます。なお、2022年度より、GVA目標達成度を取締役・執行役員の業績連動報酬決定の重要なKPIとしており、GVA 経営意識のさらなる浸透を図っています。
GVA・ROE実績、見込み(単位:億円)
2018年度 (2019年3月期) |
2019年度 (2020年3月期) |
2020年度 (2021年3月期) |
2021年度 (2022年3月期) |
2022年度 (2023年3月期) |
2023年度予想 (2024年3月期) |
2024年度目標 (2025年3月期) |
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営業利益 | 66 | 67 | 46 | 48 | 58 | 75 | 100 |
投下資本 | 1,373 | 1,342 | 1,327 | 1,258 | 1,331 | 1,291 | 1,350 |
GVA※ | -19 | -16 | -31 | -26 | -23 | -11 | 全社計黒字化 |
ROE | 3.7% | 4.0% | 1.9% | 2.6% | 3.9% | 4.15% | 6.32%以上 |
- GVA(Gunze Value Added)=(NOPAT+配当金)-(期末投下資本(総資産-無利子負債))×WACC
GVA向上のためのツリー
市場評価と株主還元戦略 2023年3月、東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」がリリースされ、プライム市場・スタンダード市場上場企業のうち、特にPBR(株価純資産倍率)が1倍割れとなっている企業および資本収益性や成長性に課題がある企業に対応が要請されました。グンゼグループの2022年度末のPBRは0.7倍であり、1倍を割っています。PBRは「ROE(自己資本利益率)×PER(株価収益率)」に分解されますが、2022年度のPERはプライム市場の平均である15倍以上で推移しているのに対し、ROEは3.9%で株主資本コストを下回る水準であることから、課題は特にROEにあると考えています。大規模な自己株買いや増配により分母の自己資本を短期的に削減させることは可能ですが、株式市場から求められているのは、継続的な分子(利益)の成長です。中期経営計画「VISION 2030 stage1」期間中の株主還元方針は、ROEが株主資本コストを上回るまで総還元性向100%を維持し、配当はDOE(株主資本配当率)2.2%以上、残りは自己株式の取得により利益還元することとしています。この方針は、安定的・継続的な利益還元を実現するとともに、自己資本を一定に維持し、収益拡大によって資本収益性を向上させる意思表示でもあります。なお、この基準に則り、2022年度の1株当たり配当金は147円となりました。2023年度の1株当たり配当金予想は150円としています。
1株配当金と配当性向の推移
自社株の状況
中期経営計画推進による企業価値向上
中期経営計画「VISION 2030 stage1」において、機能ソリューション事業は、プラスチック分野とエンプラ分野を中心に収益拡大をけん引すると期待しており、プラスチック分野については、守山サーキュラーファクトリー®の本格稼働により、持続的な企業価値創造にも取り組んでいきます。メディカル事業は、綾部工場の増設をはじめとする積極的な投資と新商品の拡販により、事業拡大を加速させます。さらに、アパレル事業の構造改革やライフクリエイト事業の収益性を重視した管理強化により、収益を改善することで、2024年度の全社目標である営業利益100億円、ROE6.32%を確実に達成し、ROE8%以上を早期に実現させたいと考えています。
今後、資本コスト重視の経営を推進するとともに、株式市場からの評価(株価)とグンゼグループで推計する理論株価を比較・分析し、対策を講じていきます。事業ごとのフリー・キャッシュ・フロー計画に基づくインカムアプローチ方式のほか、事業ごとの利益計画に基づくマーケットアプローチ方式でも事業価値を算出し、検証します。前述した資本収益性の目標達成に向けた成長シナリオが、適切な広報IR 活動を通じて株式市場に評価されることにより、PERも維持向上し、PBRが1倍を超える企業価値創造につながると考えています。
「資本コスト経営」浸透に向けた社内広報の取り組み
「資本コスト経営」浸透のために作成した冊子
社内への浸透を図り、社員が一丸となって「資本コスト経営」に取り組むために、2020年度よりイントラネットや社内報を活用し、管理指標であるGVAについて全10回にわたってその概念やその重要性を説明し、内容の理解度向上を図りました。
さらに2022年度は、日常業務と「資本コスト経営」との結び付きや、GVA改善に向けた個々の取り組むべき業務を分かりやすく理解できるシリーズを企画し、紙面で読みたいとの希望を受けて冊子化しました。シリーズ終了後にはアンケートを実施し、理解度をイントラネットで公表するなど、フィードバックしています。「資本コスト経営」を社員がより身近に感じた上で理解を深め、業務の中で実践していけるよう、今後も取り組みを継続していきます。
さらに2022年度は、日常業務と「資本コスト経営」との結び付きや、GVA改善に向けた個々の取り組むべき業務を分かりやすく理解できるシリーズを企画し、紙面で読みたいとの希望を受けて冊子化しました。シリーズ終了後にはアンケートを実施し、理解度をイントラネットで公表するなど、フィードバックしています。「資本コスト経営」を社員がより身近に感じた上で理解を深め、業務の中で実践していけるよう、今後も取り組みを継続していきます。