トップメッセージ
2022年度は、外部環境の大きな変化を受け、グンゼグループにとって厳しい1年となりました。新型コロナウイルス感染症の蔓延による社会活動の制限が続く中、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻がもたらした世界的な物流の混乱や原燃料価格の高騰、さらには急激な為替変動の影響を大きく受けました。この結果、2022年度の売上高は1,360億円と業績予想を達成したものの、営業利益は58億円と業績予想をやや下回りました。
機能ソリューション事業については、価格転嫁で原燃料価格の高騰を吸収できたほか、グローバル製販体制が整っていることから為替変動がプラスに作用した面もあります。一方、アパレル事業は、コロナ禍による消費低迷や、海外で製造し国内で販売するというビジネスモデルが円安の影響を受け、2億円の赤字となりました。ライフクリエイト事業においても、コロナ禍で人流が減少し、ショッピングセンターへの来場者数やスポーツクラブの会員数が回復せず、厳しい状況となりました。
厳しい環境でしたが、中期経営計画「VISION 2030stage1」の1年目の手ごたえを十分に感じています。「VISION2030 stage1」では、「新たな価値の創出」「資本コスト重視の経営」「企業体質の進化」「環境に配慮した経営」の4つを基本戦略としています。この戦略は、株主さま、お客さま、お取引先さま、従業員、地域社会というグンゼグループのステークホルダーの皆さまに向けた取り組みです。基本戦略の1つ目、「新たな価値の創出」としては、既存事業のリニューアルや新規事業の育成に積極的に取り組んでおり、2023年4月、プラスチックフィルム分野の基幹工場である守山工場(滋賀県守山市)をサーキュラーファクトリー(資源循環型工場)に転換し、竣工しました。
同工場は、太陽光や豊富な水資源をエネルギーとして活用するだけでなく、これまで廃棄されていた製品や原材料などを廃棄することなく新たな資源として循環させる製造の仕組みを取り入れた最先端の工場です。これまでも、プラスチックの端材からハンガーを製造し、それをアパレル事業が利用するといった実験的な資源循環を行っていましたが、サーキュラーファクトリーでは資源を循環させること自体をビジネスとして成立させ、技術の仕組みを社会課題の解決に直結させていきます。
さらに、機能ソリューション事業では、エンジニアリングプラスチックス分野が半導体向けやメディカル関連へシフトし、グンゼグループの成長を担う分野として成長しています。また、アパレル事業では、新商品の継続的な投入に加え、オンラインストアや直営店舗へ販路を拡大し、お客さまとの新たな接点を構築しています。基本戦略の2つ目、「資本コスト重視の経営」として、グンゼグループでは、各事業の現場まで落とし込み、資本コスト意識の浸透を徹底しています。事業部門により資本コストの差異が大きいため、指標としてGVA(Gunze Value Added)を導入し、社内の評価軸としています。各事業部門において、投下資本に対する収益性管理を強化し、GVAの向上に努めています。収益性の低い資本を縮減する取り組みを進めるほか、持ち合い株式の縮減にも取り組み、利益の最大化を目指します。3つ目の「企業体質の進化」では、従業員の働きやすさなどを目指した取り組みを進めています。東京支社では、2022年2月の汐留オフィスへの移転をきっかけに、フリーアドレス化を推進し、「オフィス改革」を具現化しました。2022年8月の大阪・堂島オフィスへの移転の際も同様の取り組みを行い、働きやすい環境の構築を進めています。また、グンゼグループでは、女性活躍推進や子育て支援を充実させており、オフィス環境や働きやすい制度を整えることで、女性の定着率を向上させていきたいと考えています。4つ目の「環境に配慮した経営」では、グンゼグループは2021年にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同を表明し、全社的にCO2の削減に取り組んでいます。Scope1+Scope2については、中期経営計画「VISION 2030stage1」で具体的な削減目標を掲げており、Scope3についても削減シナリオの策定を進めています。守山サーキュラーファクトリー®(滋賀県守山市)をはじめとする事業を通じた取り組みと合わせ、、環境に配慮した取り組みを実践していきます。
事業転換を目指す構造改革
2022年度は外部環境の悪化を受け、事業構造改革に取り組む必要が生じました。選択と集中を検討した結果、2022年10月に電子部品事業部のフィルム部門を株式会社ダイセルへ譲渡し、2023年2月には中国にあったストッキング生産工場を終了して、ストッキング生産を国内工場へ集約しました。現在、新型コロナウイルス感染症の5類移行を受けて社会活動が正常化に向かい、旅行などへの意欲が高まっていることから、インナーウェアをはじめとするアパレル製品の需要回復も見込まれます。原材料価格の高騰や為替変動に見合った価格改定も進めながら、アパレル事業の組織再編を通じて、収益改善を加速します。企業には社会課題の解決も求められており、すべての事業において、持続可能な事業に変革していく努力を進めていきます。
メディカル事業の分社化
2023年4月には、グンゼグループの成長をけん引するメディカル事業部の一部およびQOL研究所を、グンゼメディカル株式会社に吸収分割しました。研究から販売まで一貫して運営できる医療機器専業の組織体制により、スピーディな事業拡大が可能となり、あわせて薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)へも十分に対応できる組織に変革しました。グンゼメディカル株式会社では、強みである生体吸収性材料をコアテクノロジーとした医療機器の開発に加え、市場変化とニーズを反映した開発スピードの迅速化を進め、また医療領域別ポートフォリオ戦略による選択と集中やM&A探索を強化することで、医療業界での競争力を高めていきます。
グンゼグループは、機能ソリューション事業やライフクリエイト事業など、事業を多角展開していますが、世の中のイメージはやはり「アパレルの会社」というものです。このアパレルという看板を、今後どのように磨いていくかが課題だと認識しています。
グンゼグループは創業以来、「人間尊重」「優良品の生産」「共存共栄」の3つを、変えてはならない「経糸」として経営理念に掲げてきました。さらに、時代に合わせて柔軟に対応することを「緯糸」として、新たな価値を創出しています。絹糸を作る蚕糸業に始まりアパレル事業、機能ソリューション事業、メディカル事業と、事業が変遷しながらも、ステークホルダーの皆さまから127年にわたって支持されてきたのは、3つの「経糸」を大切にし続けてきたからであり、今後もこの3つを企業の根幹に置き続け、社会に必要とされる会社になることを目指します。
グンゼグループの成長を担うメディカル事業、経営の安定性を担保する機能ソリューション事業のプラスチックフィルム分野、エンジニアリングプラスチックス分野、そして高い知名度で社会にアピールできるアパレル事業の3つの事業が、それぞれの役割を果たすことが企業価値の向上につながると考えています。
さらに、株主さまと価値観を共有するため、2022年より役員報酬の業績連動報酬の割合を高めるとともに、GVA、TSR(株主総利回り)、全社CO2排出量削減目標の達成度合いをKPIに設定し、社会的利益と経済的利益の両立を意識した経営を目指します。
民間企業である以上、経済的利益は追求していかなければいけませんが、社会的利益への取り組みもおろそかにはできません。
従来の経済的利益を原資として社会貢献するのではなく、社会的課題の解決がそのまま事業になることを目指しています。グンゼグループは、経営理念で「人間尊重」を掲げ、教育を最重点としてきた会社です。時代が変化し、ジョブ型雇用への移行など人財の流動性が高まる中、時代に合わせて人財に対する取り組みを変化させていく必要があると思います。一方で私は、育児や介護などのライフイベントにも柔軟に対応して働き続けられる雇用の安定性を図ることも大事だと考えており、従業員の生活の基盤を保証した上で、制度改革を実行していきたいと考えています。
私は経営者として、倫理的・経済的にあらゆる面で「正しい」ことを行う、正しい選択が大切だと考えています。何が「正しい」かを判断するのが経営の役割です。その覚悟を胸に「変革と挑戦」を進め、社会的利益と経済的利益を両立させるサステナブル経営を通じて、企業価値の持続的向上を目指していきます。グンゼグループの活動に対し、より一層のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願いします。