2025年10月7日

1本のチューブからはじまった新たな挑戦
~医療分野で健やかな暮らしに貢献[前編]~

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#エンジニアリングプラスチックス
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写真左から、マスダ(営業課)、ウチヤマ(商品開発課)、キクチ(営業課)

狭心症や心筋梗塞、糖尿病などを抱える患者にとって、負担の少ない治療法として広がるカテーテル治療。グンゼのエンプラ事業部は、その製造に欠かせない極細フッ素樹脂収縮チューブの製造・販売を通じて、医療分野への展開と事業拡大を進めています。
今回は、そんなエンプラ事業部の挑戦をテーマに、“肌着のグンゼ”が、やがて医療現場を支える製品づくりへと歩みを進めた、その第一歩に迫ります。
試行錯誤の果てにたどり着いた“逆転の発想”とは──。


包装フィルムから始まった、異分野への挑戦

―― はじめに“肌着のグンゼ”が、エンジニアリングプラスチックス(以降、エンプラ)事業に進出した経緯をお聞かせください。

マスダ グンゼのエンプラ事業の出発点は、肌着やストッキングといったアパレル事業に次ぐ柱として始まったプラスチック事業にあります。自社の靴下の包装フィルムで使用するところから始まりましたが、その後、加熱すると収縮するフィルムなどを開発しました。現在では、ペットボトルのラベルや食品包装フィルムなどに使われています。
そこから、さらに高機能で付加価値の高い製品をつくろうと、エンジニアリングプラスチック(※)に挑戦するようになったんです。最初に取り組んだのは、フッ素樹脂を使った「収縮チューブ」の開発でした。コピー機やプリンターの内部部材、あとは産業用ロールなどにも使われるような製品です。徐々にお客様にも使っていただけるようになって、事業としても軌道に乗っていきました。
そうした中で、大きな転機となったのがポリイミドベルトの開発です。これはコピー機やプリンターの中にある転写ベルトとして使われるもので、紙に印刷をする上でなくてはならない部材です。最初は、グンゼが得意としてきた押出成形の技術を活かして製品化しました。その後、お客様から「ポリイミド素材でもやってみないか?」というお話をいただいて、そこから共同開発を進めました。このポリイミドベルトは、今では国内外ほとんどすべてのコピー機やプリンターのメーカーに採用される製品になっていて、グンゼは業界トップシェアを誇り、今のエンプラ事業部の大きな柱になっています。

※【エンジニアリングプラスチック】耐熱性や機械的強度が高く、工業用途に適した高機能樹脂

「全然使えない」から始まった試行錯誤の3年間

―― そこから健康医療分野へと広がっていった経緯を教えてください。

マスダ 当時、主力製品の一つだったのが収縮チューブです。OA業界向けだけでなく、一般産業用のロールカバーや、電線やセンサーに被せる細径の絶縁用チューブといったラインアップがありました。
2008年ごろ、こうした収縮チューブは多くの業界で使っていただける製品だったので、継続的に専門誌などに広告を出していました。技術者向けの媒体に掲載していたところ、あるカテーテルメーカーから引き合いがあり、話を聞いてみると、「今よりもっと細い収縮チューブが欲しい」という要望だったんです。
当時のカタログラインアップでは対応できなかったのですが、私はこの話に可能性を感じたので、そのカテーテルメーカーとの密なやりとりをはじめました。それと同時に、「市場規模が大きいカテーテル分野への参入は、大きなビジネスチャンスです!」と技術開発や生産部門に訴え、新たなプロジェクトをスタートさせました。
そこから1年ほどで、これまでより細い収縮チューブが完成したんですが、意気込んでお客様のもとへ持参したところ、「全然使えません」とバッサリ言われて……。私たちは、「細ければいい」と思っていたんですね。でも、実際はそうではありませんでした。カテーテル用途では、非常に高い精度とともに、高い収縮率、つまり、収縮前後の径の差が大きくなることが求められていたんです。
さらに、熱をかけたときの長手方向の長さのコントロールが非常に重要だということもわかったんです。熱をかけるとチューブは縮みますが、径の変化だけでなく、長さの変化まで厳密にコントロールする必要があった。製品の特性としても、工程設計の面でも、我々の従来の技術では足りなかったんです。
ここから、本格的なトライアンドエラーが始まりました。

キクチ 私は当時、開発部門にいたのですが、前任の開発担当者がずっと粘り強く挑戦していましたね。既存の設備ではどうしてもお客様の要求を満たせず、設備そのものを一新し、原料の選定もやり直して、全く違うアプローチで製造方法を組み立て直しました。
収縮機能を付与するための拡径方式も根本から見直したんです。これは非常に時間がかかりました。
それでも2年ぐらいかかったんですよね。

弱点をあえて活かした、逆転の発想

マスダ 最終的に、キックオフから量産化まで、丸3年かかりました。でも、ようやくお客様から「これなら使える」とOKをいただけたんです。

キクチ 高収縮性をうまく引き出せる設備ができてからは、カテーテルメーカー各社とのやり取りもしやすくなったんですが、その中で、また新たにわかったことがありました。
それは「引き裂き性」です。カテーテルの製造工程では、カテーテル成型後、最後に表層のチューブを剥がすのですが、そのときに手で簡単に裂けることが非常に重要だということです。当時の私たちの製品には、そういった特性はありませんでしたが、競合他社にはそれを実現した製品があり、独壇場という状態でした。
そこで、本来、裂けてはいけないOA用チューブの開発で、裂けてしまうチューブができてしまった過去の失敗例を思い出したんです。
「あの失敗の原理をコントロールできれば、あえて裂けるという機能が付くのではないか…」。
そんなアイデアを閃いたものの、そう簡単にはうまくいきませんでした。設備面や条件面など試行錯誤を繰り返したものの、チューブにならなかったり、引き裂けはするけど想定外の箇所から裂けてしまったり、裂けてもチューブの外観が悪かったり、失敗の連続でした。
それでも色々な部署を巻き込んで、数か月単位で検討・調整を重ねた結果、「見た目は普通のチューブだけど、狙った場所からきれいに裂ける」という状態にたどり着いたんです。

マスダ 自画自賛になりますが、これは大発明でした(笑)。他社の特許に触れずに、引き裂き性を実装できたのは、非常に大きな一歩でした。

ウチヤマ この引き裂き性の実装技術は、もう一つ新たな独自の強みも生み出しました。というのも、複数の樹脂を使って引き裂き性を実装する方法は、透明度が下がってしまうんですが、私たちの単一の樹脂だけでできる方法だと、高い透明性を保てるんです。カテーテルを製造する際、一番外側にグンゼの収縮チューブを被せるんですが、内側の構造は均一な形状だけではなく、中には先細りする形状や段差のある形状もあり、被せる対象も様々です。そのため、カテーテルメーカーにとっては、中身が透けて見えて、ポジショニングしやすいということが重要なんです。だから、単一の樹脂でチューブを作る方法は、「引き裂き性」と「透明性」の両方を実現できた一石二鳥なところもあります。

マスダ 高収縮で引き裂けて、しかも透明。長手方向の寸法もコントロールできる。そうしたグンゼ独自の強みを持った製品を持ってカテーテルメーカーを回っていったときは、どこへ行っても、「すごいね」「現行品から切り替えたい」と、嬉しい反響をたくさんいただきました。
収縮チューブ開発に取り組みはじめた最初の2~3年は、お客様にOKをもらうまで本当に苦労して、なかなか先が見えない時期でしたが、ようやくそれを突破できて、さらに既存製品を凌駕する新しい価値を提供できるようになったのは、営業としても達成感が大きかったです。


数えきれないほどの失敗と改善を経てたどり着いた“逆転の発想”は、新たな強みと自信をもたらしました。
後編では、それを支えたエンプラ事業部の文化と、次なる展望に迫ります。

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