グンゼグループの持続的な企業価値向上
「資本コストと株価を意識した経営」への取り組み強化を求められる中で、PBR1倍超えに向けて徐々に改善が進む一方、株価は不十分な水準から脱皮できていません。今後取り組むべき内容や、対応すべき課題について提言をお願いします。
中井
グンゼは長年、堅実な経営で会社を存続させてきました。現在も財務状況は極めて良好です。財務状況の堅実性は、コロナ禍のような予期せぬ事態が起こった場合でも企業の存続が揺らがない点で、極めて重要なことです。一方で、グンゼは、収益性の問題が指摘されています。経営陣も収益改善や赤字部門の解消に取り組んでいますが、依然として、課題を残す部門があります。取締役会においては社外役員からも、収益性に課題がある部門に対して、今後の見通しや対処などの提言が常になされています。現状事業の延長線上にある拡大戦略だけでは、資本効率の大きな改善は期待できません。そのため、事業分野ごとに、国内外を問わずM&Aによる事業拡大の模索に関する議論も行っています。今後の事業拡大のためには、現在の事業の弱点分野だけでなく、さらなるグローバル化の議論を進めていく必要があると考えています。
木田
成長をけん引するメディカル事業や、利益貢献度の高いエンプラ分野に対しては、今後も思い切った投資をすべきと考えます。同時に、アパレルやライフクリエイト関連の収益改善は喫緊の課題です。過去にとらわれることなく、グンゼ全体の成長戦略の中で今一度、事業の将来像を明確にし、そのための取捨選択や転換、構造改革を強力に推し進めるべきだと考えます。今後、グンゼが高水準の利益を確保するためには、独自性のある参入障壁の高い商品を世に出すことや、ブランド力の強化に加え、目まぐるしく変化する経営環境を捉え、事業ポートフォリオの最適化を常に意識することが必要です。世の中にまだ存在しない新しい技術や価値を創出する部門だけでなく、グンゼ全体を見通し戦略を立てる部門の役割を、これまで以上に強化すべきだと考えます。
現在、構造改革や成長投資などを推進していますが、残された課題について、意見をお聞かせ下さい。
木田
電子部品分野の譲渡やスポーツクラブ施設の一部閉店など、収益改善が進まず、抜本的な対策を打てていなかった事業に対して、ようやくメスが入り始めたという印象を持っています。今後は、これらの改革の取り組みで得た知見やノウハウを、構造改革実行のスピードアップに活かしていただきたいです。また、アパレル事業については中国の工場を閉鎖して生産拠点を集約し、業種横断型の組織再編を行うなど、大きな構造改革を行いました。その結果、2023年度には営業利益が赤字から黒字に転換したことは幸先の良いスタートとなりました。しかしながら今後、GVAの黒字化に向けて、D
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Cへのシフト強化や物流問題、円安対応、国内人口減少への対応など、さらなる収益改善に向けた課題が山積しています。歴史のある事業だけに、現状を変えることは容易ではないと理解していますが、強い意志を持って、引き続き思い切った改革に取り組んでもらいたいと思います。
鯨岡
1983年に『日経ビジネス』が「会社の寿命30年」説を唱えましたが、現在も、企業が持続的に成長して生き残っていくためには、不断の経営努力や創意工夫が必要なのは言うまでもありません。グンゼは創業128年を迎え、製糸業のスタートから現在の事業に至るまで、多くの改革や新規事業の創出に取り組んできました。つまり、グンゼにはさまざまな改革や創生にチャレンジするDNAが脈々と受け継がれており、ここ1~2年でも課題事業の構造改革に加えて、メディカル事業など成長分野への投資を強化しています。さらに、PBR、ROEなどの財務指標や事業別GVA管理に関する議論も活発に行われています。
今後さらにスピード感を意識しつつ、成長事業への投資拡大をより積極果断に行い、付加価値を高めることによる利益率向上と増益を目指す取り組みを優先していただきたいと思います。あわせてIRを含めた企業活動の発信や知名度を向上させるような広報活動も重要と考えています。
2023年からメディカル部門を事業セグメント化しましたが、この決断は、成長をけん引するポジションを明確に打ち出した点で高く評価したいと考えています。グンゼの主要な医療機器は、繊維やプラスチックの技術の実績や知見を活かした製品開発をベースとしており、「ここちよい製品・サービス」「人々のQOLの向上に貢献する製品・サービス」を提供するという会社の基本方針に完全に合致しているものです。生体吸収性製品を中心に、グンゼの優位性をより強固なものにして、圧倒的なマーケットシェアの獲得を目指してもらいたいと思います。
先日、綾部市にあるメディカル新工場の建設現場を視察しました。綾部市は、京都駅から特急で1時間で、京都の中心部からほどよく近い場所でもあります。この新たな施設で製品が誕生し、生産体制も整備されるのを楽しみにしています。働く場所として、また大学・研究機関・医療機関とのリレーションにも適した環境だと感じました。
中井
今注目されているエンプラ分野も、高い技術力によって諸分野の企業のニーズに応える形で種々の製品を提供してきました。最近では、新たな企業とのさまざまな用途開発による取り組みが拡大しています。昨年、主力工場である江南工場(愛知県江南市)の事務所棟を建設しましたが、今後はさらなる工場の増設も計画しています。製品の安定供給に加えて、他社に追随されることのない技術向上を行い、新たな核となる製品を確立して、この分野を拡大していくことを期待しています。
中期経営計画「VISION 2030 stage1」は2024年度が最終年度となります。各事業部門の取り組みをどのように評価していますか。
中井
基本戦略の1つである「新たな価値の創出」について、まず挙げられるのは、プラスチック分野におけるサーキュラーファクトリー(滋賀県守山工場)です。これまで多数の見学者が来場し、顧客からの受注も徐々に増えていると報告を受けています。プラスチック製品に対する批判が高まる中、環境に配慮した資源循環型工場で販売拡大を進めることとしています。また、アパレル事業においては、ECチャネルの強化、新商品や新ブランドの立ち上げに取り組む一方で、生産部門の構造改革を進めています。メディカル事業においては、癒着防止材など、今後販売拡大が期待される製品が上市され、特に海外における販路拡大に取り組んでいます。メディカル事業の活動はいずれも道半ばですが、方向性として間違っておらず、新たな価値創造として、評価できるものとなっています。
鯨岡
「VISION 2030 stage1」では、経営資源の戦略的配分による、事業ポートフォリオ変革・事業構造改革に大きな成果があったと評価しています。
実際に、綾部のメディカル新工場と研究所の建設現場、守山のサーキュラーファクトリー、江南のエンプラ新工場を視察しましたが、いずれもこれからのグンゼの発展を期待させるものでした。
事業構造改革については、果敢に取り組んだ結果として評価しています。今後も筋肉質な企業体質を目指し、改革を継続すべきだと思います。残念ながら、全社計GVA黒字化は未達ですが、数値目標の達成実現に向けた計画立案と活動に留意していただきたいです。
グンゼは、社会的利益と経済的利益の両立に向けた「サステナブル経営」の中で、人的資本への取り組みや環境に配慮した経営を推進しています。現状をどう見ていますか。
木田
グンゼの人財マネジメント指針は、「多様性」「自立性」「活躍」の三本柱です。その進捗や達成度を可視化するのは難しいものの、顕著な指標に女性活躍推進があります。グンゼは国内製造業の中では女性社員比率が34%と高く、近年の新卒採用比率も女性が約半数を占めています。その半面、役員層に占める女性比率は13.6%、女性管理職は7.0%と低く、ともに国内製造業平均を下回っている状況です。多様な人財を採用したのちに、どのように育成し、活躍を推進するのかが課題であることは、この数字から見ても明らかです。これまで効率的で正しいとされてきた組織の在り方や価値観、手法に固執していては前に進めません。育児支援制度やアンコンシャスバイアス研修、GLSL(グンゼリーダーシップスクール・レディス)の実施といった施策にとどまらず、採用から管理職、役員登用まで途切れることのない育成や支援の仕組みが必要です。もう一歩踏み込んで、階層ごとや事業部門ごとに課題を洗い出し、具体的な目標設定とロードマップに基づいた戦略的な施策の推進を期待しています。また、それらの実現のためには現在推進している働き方改革やデジタルの積極活用などによるプロセス改革は不可欠なものだと考えます。
中井
環境対応については、CO2排出量削減率、エネルギー原単位削減率とも、2023年度目標は達成できており、今後もCO2排出量2030年度目標削減率35%以上の達成にまい進していただきたいと思います。先ほど述べたサーキュラーファクトリーによる資源循環も、環境対応として大いに評価できます。創業の精神においても、地域と共生することをモットーとしているグンゼですので、引き続き先進的に環境対応の取り組みを行う必要があると考えています。
鯨岡
プラスチック分野が主力事業であるグンゼにとって、環境に配慮した経営は、「やらなければいけない」ではなく「やることで価値を生む」という考えをもって取り組むべき大事なテーマです。各工場の視察では最新の環境対応の取り組みを実感できましたが、特にサーキュラーファクトリーは、グンゼのシンボリックな施設として、取引先だけではなく地域の住民の方々などに広く体験してもらうことで、グンゼを知ってもらい、ファンになってもらう機会にもなります。この取り組みは、グンゼの企業価値の向上につながるものとなるでしょう。
グンゼグループの監査を行う上で、見えてきた課題は何でしょうか。また、取締役会での議論内容についての所感をお聞かせください。
舩冨
グンゼは創業の精神を受け継ぎながら、時代の変化に合わせてさまざまな事業を展開し、進化を遂げてきました。現在は4つの事業セグメントを有していますが、この幅広い事業展開は大きな強みである一方、弱点にもなり得ると思います。近年の厳しい社会経済情勢の下では、すべての事業が順調に推移するということはなかなか難しく、また、それぞれの事業の発展のためには、スタッフにも高度な専門性が求められます。「選択と集中」をさらに進め、引き続き、社会にとって必要とされる会社を目指していくことが重要です。
取締役会では、事業構造改革に関する議論もタイムリーに行われています。社外役員の意見にも柔軟な姿勢で耳を傾け、少しでもグンゼという会社を良くしたいという経営陣の真摯な姿勢が伝わってきます。
中
1年間、グンゼの監査を行い、ガバナンスやコンプライアンスに関する制度や仕組みは、十分に機能していると思っています。
各事業について、役員会合での説明を受けて往査をし、取締役会に参加するなかで、役員や従業員の皆さんが、「VISION
2030stage1」の達成に向けて、戦略的かつ真摯に取り組んでいることを確認しました。取締役会では、社内役員と社外役員との間で経営の在り方についての認識に大きな乖離はなく、社外役員の指摘や意見の多くが経営に反映されています。
グンゼの経営は大変堅実であると評価していますので、現在の課題は、収益力の強化に尽きると思っています。
今後、グンゼグループが成長していくために最も必要な対策は何でしょうか。
中
機能ソリューション事業、メディカル事業については、すでに先進的な取り組みがなされており、収益のさらなる向上に貢献しつつありますが、収益力の壁をブレークスルーするためには、売上高の45%を占め、人財の約半分が従事するアパレル事業の収益性を改善することが不可欠です。工場の統廃合により生産の効率化は進みましたが、さらに収益を向上するためには、販売を強化する必要があると考えています。
特にインナーウエアにおいて、グンゼは他社に負けない高い品質力があります。商品開発力を含めた販売力の強化は、成果が出るまで少し時間がかかると思いますが、引き続き注力していただきたいと考えています。ただ、個人的には、ブランドとアイテムが多すぎる気がします。ブランドやアイテムを整理し、量販店など従来の販売チャネルと、ECサイトなどの直販チャネルで取り扱いブランドを別にするなどのすみ分けを図ること、そしてECサイトの強化に向けて投資を拡大することが必要だと思います。
舩冨
やはり企業の成長を支えるのは「人財」です。人財の確保と育成に全力を挙げるべきと考えます。「VISION
2030stage1」では、人財戦略として「企業体質の進化」を掲げており、夢のある元気な会社、選ばれる会社を目指しています。もちろん、職場環境をより良くすることや、キャリア形成への積極的な支援など、従業員のニーズに応えていくことも必要です。ただ、雇用の流動化が進む中、社員にとって夢のある会社となるためには、社員と会社が相互に理解し合い共感すること、そして、この会社に勤めて良かったと感じてもらうことに尽きるのではないかと思います。仕事を通じて社会に貢献していることを実感できれば、モチベーションの向上にもつながります。会社側から社員に向けて、その仕事の目的・意義をより積極的に発信することが重要です。事業所などに監査で伺う際には、社員の声に耳を傾けるとともに、社外役員の目から見たグンゼの素晴らしさを伝えることを心掛けたいと思います。