VISION2030を実現するための人財ディスカッション

グンゼは歴史的背景から受け継がれるDNAを大切にしている会社ですが、グンゼの人財の特長とは何でしょうか?

小倉
祖業である製糸業の製品である生糸は、経糸と緯糸で織りなされて織物となります。緯糸は多少品質が劣っていても技術力で補うことができますが、経糸は一度織機にしつらえると、後から糸の品質を補うことはできないので、初めから最高の糸をセットすることが重要となります。創業の精神である「人間尊重」「優良品の生産」「共存共栄」は、私たちが変えてはならない「経糸」として大切に引き継ぎながら、時代のニーズに合わせて柔軟に対応させる「緯糸」によって、新たな価値を創出してきました。また、生産においては、「心が清ければ、光沢の多い糸ができ、心が直ければ、繊度の揃った糸ができ、心に平和があれば、節のない糸ができる。善い人が良い糸をつくり、信用される人が信用される糸をつくる」という創業者の考えを実践し、つくる人の心の持ち方を大切にしてきました。さらに、私たちが大切にしている考え方や姿勢を、「誠意・愛情・謙虚」という三つの章句として定義しています。グンゼの人財は、優良品の生産のために今もこの心の持ち方を教育してきており、誠実や真面目という性質はグンゼの社員の一番の特長だと思っています。

社外から見たグンゼの人財の課題はどのようなものでしょうか?

木田
一つひとつ積み上げて改善していく姿勢は大変素晴らしいと思うことがたくさんありますが、思いもよらないユニークな発想や将来の夢を熱く語るような人にはあまり会ったことがない印象を持っています。これまでの延長線上で未来を考えることができた時代から、急速に価値観が変わり、過去の成功体験が通用しない時代になりつつある中で、そのような人財をなかなか発掘できないという点は課題だと思います。もし、ユニークな人財を、「少しこの部署には合わない」と排除したり、以前の成功体験のセオリーに則って「君の発言は間違っている」「非効率だ」「成功確率が低い」などと否定したりする風土があったとすれば、誰もが「もう言わないでおこう」「突出しないでおこう」と発言を控えることになりかねません。今後は、これまでの枠に収まらない個性や創造性、むしろ異質なことを歓迎する風土づくりを意識的に行うことが必要だと思います。

D&Iの現状とグンゼが取り組むべき課題、
特に2030年に女性管理職比率20%以上を目指すにあたって、具体的にどのような施策を考えていますか?

木田
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)についても、従来の価値観ややり方に合わせて頑張れる人がいれば機会を与え、引き上げていこうということでは、これまで組織の中で異質であったり、少数派であった人々も結局は現状の組織の色に染めることになってしまい、D&I本来の意味である多様性を活かした経営とは逆行してしまいます。D&Iに取り組むスタンスについては経営陣をはじめ、会社全体が改めて、D&Iを推進することで組織のマネジメントやマーケティング活動にイノベーションを起こすのだという、共通認識を持たなければならないと考えています。
また、女性管理職を増やすには、発想を根本から変える必要があります。例えば、管理職に占める女性比率に対して、「前期が1.5%で今期は3%になったので、来期はもう少し頑張って4%を目指そう」などという考え方では、2030年に20%以上を達成することは難しいと思います。
これまでのペースのままで、もし10年後に10%程度に留まったとしたら、グンゼは女性活躍が今よりも進んだ社会からどのような評価を受けているでしょう? グンゼの未来を真剣に考えるならば、人財育成や登用、評価の仕組みなどを根本的に見直すくらいの覚悟を持って取り組んでいただきたいと思います。
小倉
現在、約350人の管理職がいる中で女性管理職比率は3%ですが、DXや組織のフラット化によって10年後には管理職の人数を適正化することで女性管理職比率が20%以上になると考えています。そのための具体的な取り組みとして、まず育児をしながら管理職になるというロールモデルを作ることを目指し、2022年3月に、育児休職から半年で職場復帰すればキャリアを中断せずに職場に復帰できる制度を導入しました。半年の休職であれば、新たに人員を補充せずに周囲で助け合って、対応できるのではないかという考えに基づいています。復職後は保育園入園などに関わる費用の負担支援なども制度化しています。
木田
子育てをしていると、急な休みやお迎えが必要な状況が出てきます。今は、子育て中に責任のあるポジションに就いてしまうと、周りに迷惑がかかるということで管理職への昇進を敬遠する人が多いのではないでしょうか。突発的な事態が生じた時に、支援を求められる制度を作ったり、皆で助け合っていこうという環境や風土をつくったりすることが非常に大事だと思います。女性が管理職を目指すことを後押しするというメッセージを出すだけでは、既存の組織の中でさまざまな不安や軋轢が生まれてしまう可能性もあります。風土や環境づくりなども含めて会社が積極的に支援しなければ、管理職を目指したい人でも尻込みしてしまい、なかなか前に進まないのではないかと思います。
小倉
2023年度入社予定の総合職は男女半々を採用する方針です。アパレル部門は以前から女性社員の比率が高い上、婦人商品の責任者やマネージャーには継続的に女性が就いていますが、他の部門ではまだ不十分な部署もあるので、全部門での定着に向けて採用を継続することが重要だと思っています。
木田
部署によっては女性が増えることで、これまで通りのマネジメントが通用しなくなり、仕事がやりにくくなるという声もあるかもしれません。今、目の前の業務を効率よく回すことを最優先に考えると理解はできなくはありません。しかし、そうした声には未来視点を持って経営層が毅然と対応するしかないと思います。
小倉
管理職登用候補のモチベーションアップや意識改革が非常に重要だと考えており、階層別の教育をさらに充実させて実施していきます。グンゼは、新入社員および3~4年目までを対象とした研修は充実していますが、次の階層の研修までにはブランクがあり、このブランク期間にしっかりフォローしていくことが課題であると認識しており、まず女性管理職候補向けに階層別研修を今年度から優先的に実施し、その後は男女に関係なく教育制度として定着させる予定です。
木田
研修をすることも重要ですが、事業部門ごとにもう少し踏み込んだきめ細かな対応も必要なのではと思います。また、女性は男性よりも管理職に興味がある人が少ないと言われています。それは、先に述べたような子育てと責任ある仕事の両立への不安だけでなく、女性にとって管理職になること自体が魅力的に感じられないからだと思います。地位や給与、責任の面だけでなく、管理職になることでどのように仕事の幅が広がり、どのようなスキルが身につくのか、自身の成長ややりがいといった、自分自身の幸せなキャリア形成の糧となるプラスの情報を発信する必要もあると思っています。
グンゼ全体が、これからの時代の女性を応援していきたいというメッセージをもっと外に発信すれば、そこにコミットする女性は多いと思います。そうなればビジネスにも良い影響が生まれ、今後の人財採用にも波及し、社内の女性が上を目指していくモチベーションにもなるのではないかと考えています。

これから入社してくる人財がやりがいを感じるためにグンゼが取り組むべきことは何でしょうか?

木田
例えば、アパレルの商品は、機能性に優れ、動きやすさや快適さにこだわっていますよね。肌着一枚の着心地でその日のモチベーションやパフォーマンスも変わります。グンゼのインナーが、一人ひとりのお客さまの人生の質を高めているのです。どの部署であれ、私たちの仕事は、常にそこにつながっていて、創業以来、時代の変化に柔軟に対応しながら商品を通じて人や社会に貢献してきました。だからこそ、今、ここにこうして存在しているのだと思います。そのことにまず、現役社員が誇りを持つこと。そしてしっかりと外に向かっても発信することができれば、グンゼで働くということの意義や可能性、やりがいを感じていただけるのではないかと思います。また、私たちはこれからの未来に向け、どのような社会をつくりたいのか、どのように貢献していきたいのかということを、若者たちにも響く言葉でもっと発信すべきだと思います。
小倉
今の若い人は、心から社会貢献をしたいと思っている人が多く、そうした分野で活躍できるようなフィールドを会社に作ることが一番いいのかなと感じます。当社のプラスチックカンパニーのサーキュラーファクトリー完成によってゴミゼロ化を実現するという取り組みに対し、多くの就職活動中の学生が共感してくれています。今はプラスチックが悪と捉えられていますが、プラスチック製品がゼロになることはあり得ません。プラスチック製品の素材を循環型に変えることで世の中に貢献していくという考え方に非常に興味を示し、共感され、ぜひ入社して取り組みたいという学生の声を多く聞きます。
木田
女性が仕事をする上では、どのように育児と仕事を両立していくかということにスポットが当たりがちですが、これからは介護と仕事をどう両立するかという課題もあり、それは男性にとっても他人事ではいられない問題です。実際、働き盛りの男性が、親の介護のために仕事を辞めなければならなくなったという話もよく耳にするようになりました。少子高齢化が進む中、個人が何らかの制約を抱えながらも、会社で働き続けてキャリアを築ける仕組みを作っておかないと、すべての世代で人財が不足するということになりかねません。さまざまな人たちが安心して働くことができ、能力を発揮し、成果を平等に評価されていると実感できるよう、多様な働き方の導入や人事制度改革、評価改革に取り組んでいただきたいと思います。

女性が活躍するグンゼになるために、女性社員へのメッセージをお願いします。

木田
積極的に「私がやります」という人が出てきてほしいと思います。会社が2030年に女性管理職を20%以上にするために、全面的にバックアップしていくと宣言している中で目指すのですから、不安に思う必要はありません。安心して、貪欲に「私が一番乗りになります」というぐらいの気概を持つ人が出てきてほしいと思います。そして、環境を与えられるのを待つだけでなく、どうすればD&Iが実現するのか、自分たちも一緒に考えようというスタンスでアイデアを出し合い、実践していければ、より早く実現できると思っています。

将来のグンゼを担う人財にはどのようなことを期待しますか?

小倉
グンゼは126年の間、メイン事業を転換させながら事業継続してきました。これからも時代のニーズを的確に捉え、グンゼが有する競争優位性を最大限活用し、製品・サービスを通じお客さまやステークホルダーに満足していただく必要があります。また、経済的価値と社会的価値の両立により、社会貢献とグンゼグループの持続的成長を実現していく必要もあります。そのための人財として、特に採用活動では、リスクを恐れず初めてのことに果敢に挑戦する「ファーストペンギン」を求めています。「変化に臆することなく、変化を厭わず自ら進んでその渦に飛び込んでいく人」「自分の価値観にこだわらず変化を受け入れることができる人」「自分を変える努力を厭わない人」を求めています。世の中は想像以上に大きく変化しています。今後50年、100年持続し、成長していくためには、「イノベーション」が大事なキーワードになります。挑戦を促進し、新たな価値を創出し、多様な人財が自ら働きがいを持てる組織風土を醸成し、夢のある元気な会社、皆から選ばれる会社を実現してほしいと思います。