社外取締役鼎談

投資家との対話において、グンゼの経営判断のスピード感について改善を求める提言を受けることが増えています。社外から見た現場での議論についてどのような印象をお持ちでしょうか。

中井

グンゼは新たな取組に対してスピード感が足りないと言われることがあります。しかし、社内では早い段階で問題点を把握し、対応を模索していることが多く、適切な解決策が見つかった後は、素早く対処をしていると思います。ただ、このプロセスが外部から見えないために、スピーディーさに欠けるとの評価を受けるのではないでしょうか。意思決定までの過程における開示や投資家との対話は難しい面もありますが、改善を図るべき課題です。

木田

事業部門ごとにGVA黒字化に向け、事業戦略の計画を立て、堅実に実行していますが、事業部門の中だけで目標管理が完結してしまうと、全体の成長をけん引しなければならない部門が慎重になり過ぎ、スピードが鈍化することがあるように思います。また、会社全体への貢献度や市場の将来性を考えた場合、撤退を視野に入れるべきという判断が遅れるケースも出てくるのではないかと懸念しています。事業ポートフォリオを明確にして経営リソースの配分を行い、積極投資を行うか撤退を検討すべきかなどの基準について経営陣が普段から議論しておくことで、経営判断がさらにスピーディーになると思います。

鯨岡

事業への取組計画や見通しなどの議論に参加していますが、スピードを意識した報告、そしてスピード感を期待する経営層の意見が数多く出ています。新規事業の立ち上げや事業の拡張といったテーマは前向きな内容のため、おのずとスピード感が伴っていると感じることが多く、既存事業の再編や見直しといったテーマでも、その計画に見合うスピード感を重視していると思います。ただし、もちろん拙速な判断は避けなければなりません。
グンゼは堅実な経営、真面目でおとなしい社風といった企業イメージの影響で、スピード感に乏しいとの印象があるとすれば、日ごろからスピード感をもって事業運営を進めている会社だというイメージの醸成も進めていくべきだと思います。

グンゼは現在、資本コスト重視の経営に取り組んでいますが、さらなる企業価値向上に向けた経営の取組として何が必要だと思いますか。

中井

グンゼのPBRは1倍を割り込んでおり、企業価値やその向上性についての評価が低いことが分かります。現在の収益だけでなく、将来に向けて持続的に企業価値が向上する可能性を市場に示す必要があります。グンゼはサーキュラーファクトリーやネットゼロファクトリーなど、先駆的な取組を多岐にわたって行っていますので、これらの価値を的確に数値化するなど分かりやすく開示して、この会社の未来を具体的に示す必要があります。

鯨岡

グンゼは創業以来さまざまな事業を展開し、現在も新たな事業の創出に注力しています。こうした不断の努力の積み重ねが企業の存続には欠かせません。現在、グンゼは事業の収益力改善や、資産の有効活用など、企業価値向上のための施策に熱心だと感じていますが、創業から現在までの取組をより知ってもらい、理解と共感を得るといった活動も、企業価値向上のために必要だと思います。

木田

さらに企業価値を高めるためには、研究開発や人的資本に対する投資を行い、付加価値の高いビジネスを生み出すスピードを速め、量を増やすとともに質を高めることが必要です。また、事業部門内での収支にに留まらず、成長分野や利益率の高い分野には、全社戦略として重点的に投資を行うことも重要です。売上の柱を担うアパレル事業は近年、利益率で苦戦しており、その改善が喫緊の課題です。組織や設備の「よいものをつくる」というメーカー従来の枠に留まらず、組織や設備の効率化に加え、売るチカラ=DtoCをさらに加速させ、今一度、「グンゼブランドの価値」を明確に掲げて、お客さまに選ばれるためのブランド戦略の実行が必要不可欠だと思います。

成長けん引を担うメディカル事業に続けて、新たな成長分野を増やしていくために必要なことは何でしょうか。

鯨岡

成長分野を創出するために、元気のある行動力を期待しています。新たな市場を作り出し、高付加価値な製品を生むためには、マーケットインとプロダクトアウトの両方の視点が必要です。市場ニーズに応えるマーケットインに加え、驚きのある製品によってこれまでにない市場を作るには、自社のポテンシャルを活かしたプロダクトアウトの発想も必要かと思います。「ここちよさを提供する」をベースとしたグンゼの得意分野で、多様な事業をつなぐところに成長分野があるのではないかと考えています。

木田

繰り返しになりますが、研究開発や人財への積極投資、新規事業や新たなチャレンジを推奨する社風の醸成や教育、そしてそれらに紐づいたチャレンジ制度や評価制度が必要です。VUCAの時代と言われ、社会変化が激しく未来の予測が難しい昨今において、過去の成功パターンや慣習、組織の意思決定の手順にとらわれずに「まずやってみる」こと、そして柔軟にスピーディーに変化に対応する取組を増やし、その中から成長の種を見つけて育てるといった活動が必要だと思います。果敢にチャレンジした結果の失敗に対しては、そこから学び、次にどう活かすかを重視する組織風土を醸成しなければなりません。

中井

我が国は今後、ますます超高齢社会となり、医療分野は必ず伸びる分野です。グンゼが持つ「肌に優しくあるべき」との思想や技術が、肌に留まらず、人の身体全体に機能できたならば、それが新たな強みになると思います。優良品によって人の役に立ちたいとする思想に基づいて、病気に罹患した人、または歳を取って機能が低下した人に寄り添うことで、新たなニーズが掘り起こされるでしょう。そして、グンゼがその技術力を活かして、メディカル事業でも優良品を提供し続けていることを、世の中に広く認識してもらうことが課題だと思います。医療は国を問わず求められる分野であり、グローバル展開はグンゼが大きく飛躍する鍵になるはずです。

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グンゼは「VISION 2030」においてD&Iに積極的に取り組む戦略を示しましたが、現状に対する評価と今後の課題についてお聞かせください。

中井

我が国では、さまざまな組織でその取組が進んでおらず、男女参画が諸外国に比べて遅れているのが現状です。グンゼも苦心している企業の1つですが、現在、この課題に対し、社内で真剣な取組が見受けられます。それでも、2030年度の女性管理職比率の目標20%以上の達成には、まだ遠い道のりがあります。この目標を達成するためには、男性社員も同様に、仕事に対してやりがいが感じられ、しかも私生活との両立ができる会社にする必要があります。さらに、産休・育休もしくは何らかの理由で退職したとしても、戻ってきたいと思える社風が重要です。他方、そのような社風の中で、積極的に中途採用を実施し、新しい風を送り込む必要もあります。この点はD&Iだけでなく、グンゼの発展・拡大にも直結します。

鯨岡

新たな発想や柔軟な取組は、多様性の中から生まれます。そこから新たな企業文化が育ち、企業の価値向上にもつながります。取締役会などで、女性活躍の議論は活発ですが、D&Iの議論はトータルでみると緒に就いたばかりという印象があるので、これから外国籍の社員など、さらなる多様性に向けた深みのある議論を進めていく必要があります。そして、海外事業の展開は特別なことではなく、企業として普段通りの活動であるという姿勢が育っていけばいいと考えています。SDGsへの対応を含め、こうした取組に対して「周りも取り組んでいるから」「…ねばならない」といった声が聞こえることもありますが、これらの取組が企業にとって大きなプラスで、実利につながるという前向きな姿勢が大切だと思います。

木田

性別、年齢、国籍など多様な人財を活かして個々の能力が十分に発揮できる組織かと問われると、その指標の一つとして考えられる女性管理職の割合が5.1%に留まっており、決して高い数字とはいえないのが実情です。これまでの取組と現状を照らし合わせても分かるように、一朝一夕には結果の出ない課題であり、「VISION 2030」で掲げる“2030年には女性管理職比率20%以上”を叶えるための今後8年間のロードマップをバックキャスト方式で描き、社内外に周知徹底すべきです。また計画の立案・実行においては、女性が主体的に関わらなければならないと思います。共に活躍するために、ひいては性別に限らず多様な人財が活躍するためにアイデアを出し、発信していく役割を担ってほしいと思います。

経営幹部に必要な資質、そのために磨くべきスキルや経験はどのようなものでしょうか。

木田

グンゼにはそれぞれ特色のある事業の柱があり、その道に精通する方々が経営幹部となっておられますが、担当する事業部門運営の範囲に留まらず、全社としてシナジー効果を生み、成長戦略の策定、実行するための視座と知識、発想力が重要だと思います。幹部候補の裾野を広げ、社内外でのトレーニングやワークショップ、ネットワークに積極的に参加する機会を設けたり、事業部間でローテーションを行うなど、早い時点から経験を積める環境作りが必要です。

中井

グンゼが今後飛躍的に成長するには、現状に留まらず、事業を拡大していくことが必須です。そのために経営幹部に必要な能力とは、次なる事業を予測し、育て、社会に送り出すことです。また、組織の発展には多様な人財が必要ですが、人財をまとめ、育てるコーチングのスキルも求められることになります。成長する力とは、リーダー自身にではなく、部下自身が本来有する力であり、それを的確に発見し、信頼関係を構築して、少しだけ背中を押すことが必要です。これらは生来のものもありますが、多方面の学習や経験によって作り出すことができると思います。

鯨岡

SDGsの取組で大事なことは、周りを巻き込んで協業するといった発想ではないでしょうか。持続可能な成長を実現するためには、いろいろな協調が必要になると思います。協業に加えて、時にはM&Aによる事業拡大や新規事業参入など、思いもよらない異業種との連携や、地域住民との交流といったことも重要です。これから経営を担う幹部候補の皆さんには、どんどん外に出掛けてさまざまな人と会い、意見交換をする、といった経験が重要だと思います。