食品包装用フィルム事業への参入
肌着メーカーとしてのイメージが強いグンゼですが、実は約60年前から食品包装用フィルム事業に参入しています。そして、現在では、ペットボトル飲料用ラベルやもやし、キノコのパッケージでトップシェアを誇り、陰ながら毎日の暮らしを支えています。
近年、海洋プラスチック問題を背景に、脱プラスチックの動きも広がっていますが、食品包装用フィルムは食品を安全かつ安心して食卓に届けるためになくてはならない重要な役割を担っています。グンゼでは衛生面への配慮だけでなく、フードロス削減につながる環境に優しいフィルムの製造・販売に取り組んでいます。
今回は、プラスチックフィルム部門で営業を担当する久保さんにお話を伺いました。

フードロスの現状と解決策
まだ食べられる食品が捨てられてしまう食品ロス量は、農林水産省によると、国内で年間472万トンに及びます(2022年度推計値)。家庭内での食べ残しだけでなく、店頭での売れ残りや輸送中のパッケージ破損によって、店頭に並ぶ前に廃棄される食品も少なくありません。
その解決策の一つが「コールドチェーン」です。この仕組みは、環境に配慮した食品包装用フィルムによるフードロス削減にも深く関係しています。
コールドチェーンとは、冷蔵や冷凍といった低温管理が必要な食品を、低温状態を維持しながら生産から消費まで流通させる仕組みのことです。食品業界では、商品の長期保存や日持ちしにくい食品の輸送手段として広く活用されています。
コールドチェーンの現場での新たな気づき
もともとグンゼでは、食品包装用フィルムの製造において、ピンホール(小さな穴)について研究し、穴があきにくいフィルムの製造技術の確立に取り組んでいました。
しかし、2014年にある食品メーカーさんからピンホールの相談を受けた際、“お店の冷蔵コーナーに陳列されている食品も、実は製造から輸送まで冷凍されている”ということを知り、とても驚きました。
というのも、それまで私たちが行っていたピンホール評価は常温と冷蔵のみだったからです。このことをきっかけに冷凍状態でも同じ評価をしたところ、これまで評価していた「屈曲摩耗」(折れ曲がったフィルムが段ボールと擦れて発生するピンホール)だけではなく、中身がフィルムを突き破る「突き刺し」や 落下による「衝撃」のピンホールにも対応したフィルムでないと冷凍状態では通用しないことが分かりました。

コールドチェーンと食品包装用フィルムの課題
コールドチェーンは、食品の鮮度維持や販売可能な状態を長く保てるので、フードロス削減につながるというメリットがありますが、パッケージに使用しているフィルムが硬くなって、落下による衝撃などで中身の冷凍食品がフィルムを突き刺すなど、ピンホール(穴あき)が発生しやすくなるというデメリットもあるのです。
袋に穴があいてしまった商品は、そのまま廃棄されたり、再度袋詰め作業が必要になったりします。万が一、市場に流通した場合は大きなクレームとなります。このようなロスや懸念をなくすためにも、冷蔵・冷凍の低温下でも耐えられる食品包装用フィルムが必要不可欠なのです。
冷凍耐ピンホールフィルムの開発
ピンホールの防止策として、従来は「フィルムを厚くする」という方法が一般的でした。しかしこの方法だと、プラスチックの使用量が増えますし、環境負荷やコストの増加などの問題が生じます。また、フィルムを厚くすると、フィルムが硬くなってしまい、屈曲や摩耗性への耐性がなくなり、むしろピンホールが発生しやすくなるケースがあることも分かりました。
こうした年間100件にも及ぶピンホールの発生事例を分析する中で、私たちは独自の原料配合や積層、延伸技術を駆使して冷凍も含めた低温環境でもフィルムの柔軟性を維持し、あらゆるピンホールを防止することができる「冷凍耐ピンホールフィルム」を開発しました。通常こうした新製品は数年かけて開発するところを、この「冷凍耐ピンホールフィルム」は開発スタートから実際に使われるまで11ヵ月という異例のスピードで完成させることができました。発売以降、多くの食品メーカーさんからお問い合わせをいただきました。特にチキンナゲット、ピザなどの畜肉加工食品や冷凍食品、菓子、調味液など数多く採用頂いています。
ピンホールに関する動画はこちら☟
人と環境に寄り添う“ここちよい”プラスチックフィルムを目指して
海洋プラスチック問題など環境保全の観点からプラスチックフィルムに対してマイナスのイメージをもたれる方も多いと思います。しかし、私たちは『プラスチックフィルムを製造すること=人々の生活文化の向上に貢献できる』と考えています。プラスチックフィルムがなければ食品がより長く、美味しく運ばれることはありません。どれだけ時代や環境が変化しようと、プラスチックフィルムがなくなる可能性は限りなく低いと思います。そのため、変化する環境の中で新たに生じる社会課題やニーズを拾い上げ、それらに対する解決策を提案し続けることが私たちの使命だと思っています。この使命を常に忘れず、社会に貢献できる製品の提供に取り組んでいきたいと考えています。

